「立ち呑み処 特集」
 かつて重工業が隆盛をきわめた頃の神戸の中心が兵庫新開地であった。
 明治の時代に、湊川の河川敷は埋め立てられ、新しい土地として開かれたのが新開地であった。そして、川崎造船や重工業が一世を風靡したころ、神戸の勤め人は仕事を終えると今のJR神戸駅のあたりから新開地にかけての繁華街に繰り出したのであった。
 街の近くには世界に繋がる港があり、造船所があり、庶民の住まいがあり、市役所もあった、モダニズムがあった。劇場や寄席、映画館が次々と増えて、「東の浅草、西の新開地」と並び称せられ、神戸一の歓楽街となった。
 一時代を築いた映画の街は、いまも演劇と大衆の街である。当時の面影を今に残した立ち飲み処や居酒屋、あるいは大衆食堂が新開地やその界隈に点在するのは歴史的遺産ではある。
 神戸の居酒屋で今も名を留める古い店と言えば高田屋がすぐに思い浮かぶが、神戸は何と言っても灘の酒蔵がある。
 この酒蔵のアンテナショップとしての存在を抜きには語れない。たとえば清酒の宣伝および販売促進のために旧国鉄高架下に次々と直営の宣伝酒場を開業していった「金盃」にその原形を見る。これらの宣伝酒場では、安く酒を飲ませる、いわば立ち呑み屋としての要素が濃くなったのである。立ち呑みの良いところは、一人でも気軽に立ち寄ることができ、更には安い費用で、すなわち、ほどよく酔うのに非常にコストパフォーマンスがよい。これほど至福のひと時を過ごすことができるのは他にはない点であろうか。

 今でもその面影を残す店を紹介することにする。  新開地本通をまっすぐ北に上って、湊川公園のあたりに来ると左手に、かつては栄えたビジネスホテルの寂れた風景が目にとまる。その下にひっそりと営業しているのが「世界長」である。  家族で営業しているのであろうか、十人も入れば満席ではなかろうか。何時に開き、いつ閉まるのかさえ定かではない。なぜか壁には世界地図が貼ってある。酒類はビール、日本酒、焼酎、ウイスキーと豊富である。酒は予めポットに入れられており、コップに溢れんばかりに浪波と注がれる。
 アテの種類は決して多くはないが、マグロのすき身を始めとする刺身、竹の子など季節の一品の煮物、夏は冷奴、冬は湯豆腐、野菜のかき揚げ、くじら煮などがある。冬季の「かす汁」は寒くなった体を暖めるのには、すこぶるよいし旨い。ハリハリ鍋を彷彿させる水菜とくじらの煮物にたまに出会うこともあるが、これに出会えば儲けものである。なお世界長はいたる所にあって、筆者が確認しただけでも新開地に四店舗ある。
 湊川公園から新開地本通を下り、道路より南の競艇の場外舟券所の手前を右に行くと「世界長新開地直売所」がある。大将の話では、グリル一平の下にある世界長、元町世界長など弟子になるそうである。従って、この店こそ元祖世界長であろう。実際、たまらんアテが続々とあり、立ち飲み処の鑑である。
この店の造りは馬蹄形(U字型)のカウンターに特徴がある。酒はもちろん世界長であり、正一合270円から。アテも豆腐に代表される関東煮き(おでん)、マグロのすき身、これもトロマグロがある、更に焼き物、揚げ物と種類が豊富である。また神戸の立ち飲みやの特徴として、冬場には世界長なら世界長の酒粕を使ったかす汁があることではある。
写真を撮るんやったら、これどうやと出されたのが河豚の白子であった。これで1万円以上するとか。
 神戸市兵庫区新開地3丁目4-29
 電話078-575-4757
 12時~21時 日曜休み

 次に紹介する新開地の店は、高速新開地駅にある「福寿」である。この店の表には酒にまつわる俳句や川柳が掲げてある。この店は凍結酒を売る福寿の直営店なのであろう。  その凍結酒を呑むことができるだけでも、この店を訪れた価値がある。かき氷のミゾレ風の酒であるが、まことに風情があってよろしい。
 アテは100円台のおでんから、酢の物、揚げ物、煮物、焼き物、まぐろ刺身と多種あって高くても300円止まりである。冬場は牡蠣フライもある超お薦めの立ち呑み処ではある。とくにお薦めは、絶品のエビ入り野菜のかき揚げ、わずか150円。
いつの間にか、酒、おでん3種に日替わり一品で650円の「とくとく福徳セット」が登場していた。
 神戸市兵庫区新開地2丁目3
 電話078-575-3637

 JR元町駅前のJRA馬券売りビルの界隈は、元町金盃、八島中店、松屋などの立ち呑み処や居酒屋が非常に多い場所である。  なかでも「世界長」は千円札一枚もあれば、お腹がいっぱいになって程よく酔える店である。酒は一合250円と非常に安い。おでん八十円、串カツ六十円からというビックリ値段。早く、安く、旨いという条件を見事にクリアーしている店である。大将と奥さんの息もピッタリ、ご夫婦の掛け合い漫才を肴に飲める店である。
 神戸市中央区元町通2-117
 電話078-332-7094
 午後5時開店 水曜休み
 次に紹介する元町の店は、この世界長の近くにある「凡太呂」である。比較的若い夫婦がやっている店で、お薦めは刺身である。はじめから切って皿に盛り付けているのではなく、注文と同時に包丁を入れる新鮮さがすばらしい。しかもイカの刺身でも300円程度とお安いのである。アテは刺身、揚げ物、煮物、おでん他に多種多様なものがあるが、くじらの刺身は他ではなかなか味わえないのではないかと思う。午後4時の開店であるが、もう少し早くならないものだろうか。また収容人員は多くないので、早めに行くことである。番地は分らないので書かないが、自分で探検して探すのも結構楽しいはずである。
(筆者注:ある日、一平の飲み友達である大瀬戸さんに教えてもらったのだが、凡太呂にもれっきとしたホームページがあるとのこと。 早速訪問してみたのがここだが、どこにも凡太呂という文字がない(画像はあるが)ので検索してもヒットしないのでした。2004.06.25)

 こんなところに立ち飲みがと思わせるのが南京街の民生のある通りをひょいと横道に入ったところにある「赤松酒店」である。いやあ、予期せぬ場所にあるのでした。典型的な神戸の酒店の立ち飲みスタイルではある。酒はもちろん安い。アテもコンビーフや白いアスパラの缶詰があり納得。論ずるより、行ってみよう。

神戸市中央区栄町通1-2-25 電話078-331-6634(2004.8.13.記)  

 新開地本通から南に下ってガスビルの前を通過し、国道2号線を越えてゆく。かつて造船が華やかし頃に大いに賑わったという稲荷市場にある串焼きホルモンの「中畑商店」である。この界隈は、けっして巷のグルメ本に登場することはない。
筆者も、ある夏の暑い日に神戸立ち飲み巡りに誘われ、同行の士に教えてもらうまで未踏の場所であった。
ホルモンの串には、焼酎が実によく合った。特製のタレにはほどよく胡麻が入っており、舌ざわりがいい。一串50~80円。二人でいくら払ったか、1000円で釣りがあったように記憶するが、はてさて。
稲荷市場では震災で店舗は減り続け、現在は空き店舗が目立ち28店舗を数えるに過ぎない。この市場の店もいつ消えて無くなるかわからない。さあ、急いで出かけてみよう。そして応援しよう!

神戸市兵庫区東出町3丁目21-2
電話078-681-9598
10時~19時 木曜休み

この店の前に寄った川重に通じる通り(川崎本通)にある立ち飲み屋(名前を失念)、ここはビール大瓶380円、蒸し豚とおばけが絶品だった。中ノ島の神戸中央市場から仕入れているとのことだが、市場とは目と鼻の先であるからいいアテが揃っているのだろう。追って掲示する予定。(2004.8.7.記)


川崎本通にある店はその後の訪問で「ヤスダヤ」という名前であることがわかった。昔、娘さんであった姉妹が日曜日以外の日の朝10時から夜10時までやっている店である。店内は造船が華やかだった往時をしのばせるに十分である。壁には夏の甲子園の試合結果が貼ってあったが、姉妹かお客さんは高校野球好きなのかな。ところでヤスダヤで電話帳を引いても出てこない。安田商店であった。

左の写真が「蒸しぶた」と「おばけ」である。当地では「おばけ」というのが普通であるが、「おばいけ」という地方もあるらしい。で、蒸し豚ではありますが、おばちゃんにこのままと言われたので頷いたら、どう間違ったのか電子レンジで「チーン」であった。筆者としては、そのまんまの方がすこぶる良いと思う。 この店の焼酎や鮪などのアテの量にはビックリ、普通ではない、往時の労働者向けのまんまなのである。冬場の牡蠣も旨い!! 蛸の煮付も旨い!!

大阪立ち飲みページの主宰者のおおにしさんによると、「白いホウロウびきのトレイを使ってる店は良い店だ。」とのことでヤスダヤも使用しているのでいい店になる。(2004.8.13.記)
神戸市兵庫区西出町2丁目17-18
電話078-671-0493
10時~22時 日曜休み


番外編ということで明石は魚の棚商店街にある STAND SAKE BAR「たなか屋」を紹介する。
たなか酒店の左側に赤いのれんが掛かっている。この暖簾をくぐっていけば、いわゆる角打という立ち飲み屋が現れる。店内はなかなかええ風情ではあります。
酒屋が経営しているだけあって酒の種類は豊富かつ安いのでした。しかも、周辺の天ぷら店や鮮魚店で購入の食品は持ち込みOK(これは先代の時で今はなしらしい)というのが嬉しい。
たとえば、小鼓純米300円、明石海峡300円、まつもと純米300円、菊姫にごり350円といった具合。
この日(2002.2.18)のおすすめは、玉ネギスライス150円、長いも短冊150円、もろきゅう200円、たこキムチ200円。たなか屋最近事情はここをクリック。
さすがは魚の棚商店街にある店だ。
魚が安くて旨い!たなか屋は超お薦め!
(2004.8.16.記)
兵庫県明石市本町1-1-13
電話078-912-2218
9:30~21時(14:00~16:00休憩 但し日曜は休憩なし) 木曜休み
でも立ち呑みは10時半ころからだそうですよ。


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